建築家のココロイキってヤツを感じられるのではないか、と思うエピソードを二つ紹介したい。

 

 一つは、シドニーの「オペラハウス」。

 一般の方々でもシドニーといえば最初に思い出すほど有名な建物である。

 この建物、当時無名の建築家だったヨルン・ウォッツォン(Jφrn Utzon)が国際コンペで最初は落選したが、

 審査委員長であるエーロ・サーリネン(Eero Saarinen)という建築家が拾い上げたというイワクツキ。

 (ちなみに、私は昔サーリネンのファンだった)

 ご存じの通り、単純な形をしていないものだから、構造解析があまりにも難しく、

 構造計算だけでオーストラリアの国家予算を食い尽くすのではないかと言われたぐらい。

 その他にも様々な問題が山積し、最終工事金額は当初予定の14倍まで膨らんだのである。

 

 しかしながら、誰もがビビる程の困難を乗り越えた結果、建物が持っている魅力からシドニーの象徴となり、

 オーストラリアにどれほどの経済効果をもたらしたことか。

 建築家と政府も当時はケンカ状態になり、二度とオーストラリアには行かない!ということにまでなったが、

 現在では、その功績に対し政府から勲章をもらうまでになっている。

 

 もう一つは、日本の話で、住宅設計の神様と言われた某建築家が若かりし日々に設計した別荘がある。

 建築計画を学ぶモノであれば、一度は専門書で眼にするはずの建物。

 しかしながら、この建物、雨漏りが止まらないらしい。

 現在の材料であれば、問題なく出来そうな気はするが、

 1966年竣工の建物、現在ほど製品開発が進んでいなかった故の結果。

 

 住まい手が雨漏りを喜んでいるはずはないのだが、

 その後も仕事の依頼先を別の建築家に変えることは無かったとのこと。

 つまり、雨が漏るという大きなマイナス点を超えるほどの魅力をその建物が持っているってことなのだ。

 

 国家予算を食い尽くしても構わないとは思わないし、雨漏りがしても良いと思う建築家は誰1人としていない。

 単に「魅力」がある建物を造りたい、ってのが建築家のココロイキってこと。

 

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