言わずもがな、我々の仕事は、建て主の要望を事細かに聞くことから始まる。

　その要望、これでも１００を超える数の要望をお聞きしてきたが、

　要望と設計をごっちゃにされている事が多い。

　

　例えば、「ウォークインクローゼット（以下W-CL）が欲しい」というのが、結構多い。

　W-CLは、人気のアイテムらしく、マンションなんかだと、パンフレットに載せるプランに「W-CL」と

　書いてあるだけで「この部屋に決めました」とおっしゃる方が少なからずおられるのが現実。

　ところが、そのプランを見ると、一部の高級物件を除いて、どこに「ウォークイン」するの？

　というような小さな場合が大半である。

　こんな収納は、効率は悪いし使い勝手も最悪。

　「良いプラン」ではなく、「売れるプラン」を作っているだけ、と思う理由がこれである。

　

　で、この「W-CLが欲しい」というご意見であるが、これは純粋な要望ではない。

　当然ながら、収納には様々なタイプがあり、それぞれに長所短所がある。

　その中から、「W-CL」という形態を選択しておられるワケだが、その「選択」が既に「設計」の領分。

　要望というのは、そこで「W-CL」を選んだ「理由」自体の事を言う。

　つまり「なぜW-CLが欲しいのか」という問いの答えが「要望」。

　

　様々な要望や、敷地の条件、使い勝手や構造などから、プランを詰めていくワケだが、

　その結果として、「W-CL」だと、無駄が出ることもあるし、

　また、本当の要望を伝えて頂ければ、もっと要望にマッチした提案が出来る事もある。

　もちろん、「W-CL」が良い選択の場合もある。

　だから、良い設計屋は、建て主の要望に対して「なぜですか？」という質問をすることになる。

　建て主にとっては面倒な質問だとは思うが、

　限られた予算、生きた使い方をしようとすれば、仕方のないことなのです。