設計屋が「デザイン、デザイン」と言うと、「見た目の事ばかり言いやがって!」と良く文句を言われる。

 「使い勝手が大事!」「安全が大切!!」と言うご指摘は至極ごもっともな事なのだろうが、

 世間ではナンのカンの言ってもデザインが大切にされているのだ。

 皆さんがごく一般に使われているシロモノで、

 少々安全性のレベルを下げて、デザインを優先しているものがある。

 

 それは走る凶器である車。

 凶器であるにも係わらず、安全性が最優先ではない部分が、車体の両側に付いているバックミラー。

 町中を走っている車を見れば解るが、一般車は、ほぼ100%ドアミラー。

 若い方は知らないかもしれないが、昔は全てフェンダーミラー、つまり前輪の上あたりに付いていた。

 安全性から言うと、フェンダーミラーの方が優秀なのである。

 

 理由は、ミラーがフェンダーにあると、目を動かすだけで良く、ドアだと目と首を動かす必要があるから。

 つまり、確認までに掛かる時間がコンマ数秒短いのだ。

 車のコンマ数秒がどれほど長い時間かは、自動車教習所で習ったでしょう。

 それと、確認出来る範囲が違う。ドアミラーは、車体のそばが見えにくいのである。

 その証拠にランクル系の車体の大きな車は、フェンダー部分にもう一つミラーが付いているものが多い。

 確実な根拠は、運転のプロであるタクシーを見れば一目瞭然。

 タクシーは未だに大半がフェンダーミラーなのである。

 

 安全性を下げてまでドアミラーばかりになった理由は、一つしかない。

 デザインである。

 今「安全性が何より大切!」とフェンダーミラーしか選択肢がない車を発売すると、おそらく売れない。

 買う人がそれを解っているのかどうかは、よく解らないのだが、「それが当たり前」という時代。

 安全性はないがしろにしてはいけないが、許容範囲は個々それぞれである。

 万人にとっての安全性を前提としてしまっては、建て主さんの満足するものにならない場合もあるのですよ。

 

建築家との溝
大手の特徴